【挨拶】「AI、ビッグデータと金融政策」(ECONDAT 2026 Fall Meetingにおける開会挨拶の邦訳)
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2026年10月5日 日本銀行 日本銀行副総裁内田眞一AI、ビッグデータと金融政策 ── ECONDAT 2026 Fall Meetingにおける開会挨拶の邦訳 ── 1
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1.はじめに本日は、2026年ECONDAT の秋期会合に皆様をお迎えできることを大変嬉しく思います。この会議は 2019年の設立以来、研究者、政策立案者、そして様々な分野の専門家が一堂に会する、ユニークで重要なプラットフォームとなっています。今年の会議では、AIとビッグデータに焦点を当てます。とくに、中央銀行にとって重要な2つの役割について検討します。1つ目は分析手法と研究の進展への貢献、2つ目はAIの導入が生産性や労働市場に及ぼす経済的な影響です。AIは、金融政策の運営、金融安定の維持、決済インフラの運用を含む、幅広い中央銀行業務に影響を及ぼします。ここでは、AIの影響について金融政策運営の観点からお話しし、本日と明日議論される予定のテーマに関連する2つの問いを提起したいと思います。2.中央銀行の分析におけるAIとビッグデータの役割最初の問いは、AIとビッグデータが中央銀行の分析にどのような変革をもたらしているかというものです。要すれば、AIとビッグデータは2つの大きな制約を取り除いているように思われます。それは、計算能力の制約とデータの利用可能性の制約です。計算能力は著しく向上しました。従来は多大な人的労力を必要としていたタスクが、機械学習技術や生成AIを使用することで、迅速かつ効率的に遂行できるようになりました。
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AIの導入により、中央銀行の研究者は従来よりもはるかに大規模なデータセットを取り扱い、より複雑な分析を実行することができるようになりました。さらに、近年の技術進歩により、データ収集と研究設計のフロンティアが拡がりました。大規模言語モデルや生成AIの進展により、構造化されていないデータが構造化されたデータに変換できるようになりました。データの利用可能性は、量とバラエティの両面で大幅に進歩しました。
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最近の活用事例をいくつかご紹介します。中央銀行では、かつては一般的でなかったテキストデータ分析を実施する事例が増えています。また、コロナ禍の際には、人流に関する高頻度データを使用して、景気後退の深刻度合いをリアルタイムで評価しました。最近の中東情勢が原油輸入やサプライチェーンに与える影響をモニタリングするにあたっては、船舶位置情報に基づくオルタナティブ・データも活用しています。もっとも、完全には理解されていない部分も多く残っています。非伝統的データがどの程度有効かは、その時々の経済状態やデータの関連性に左右される可能性があります。この会議の1日目の議論が、より効果的な分析ツールの開発や政策研究に適したデータセットの特定に貢献することを期待しています。3.AI導入の経済的影響2つ目の問いは、AIの導入が、どのような経済的影響を及ぼすかという点です。技術革新の歴史を振り返ると、AIは汎用技術として私たちの生活に多大な影響を与える可能性が高いと考えられます。過去の蒸気機関やインターネットのように、AIは産業のあり方に変革をもたらし、広範なイノベーションを引き起こす潜在的な力を有しています。ただし、過去の技術革新とは異なり、AIは、肉体労働ではなく、人間の認知能力や知的作業を代替するものです。
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この点の違いもあって、AIの普及速度やその経済的影響については、専門家の間で様々な見解がみられます。楽観的な見方を示す専門家は、AIは経済に革新的な変化をもたらし、普及は急速に進むだろうと考えています。一方、慎重な見方を示す専門家は、人間の処理能力が AIに追いつかない「弱いリンクの制約( weak-linkconstraints)」と呼ばれる現象に言及し、AIの普及は緩やかなペースにとどまるだろうとみています。
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より重要なことは、AIの導入が生産性や労働市場に与える影響には、正負両方の側面がありうるということです。正の側面としては、AIは定例的な認知タスクから労働者を解放してくれます。また、研究開発のような創造的で複雑な分野において、イノベーションを加速させる可能性があります。AIは、認知タスクにおける様々なアイデアについてあらゆる組み合わせを探求できるため、これまでにない革新的なインパクトをもたらすと考えられます。これらのAIの特長は、生産性の向上と長期的な経済成長に大きく貢献するでしょう。一方で、負の側面としては、AIは、とくに知的労働に関するスキルを中心に、一部の人的資本を急速に劣化させてしまう可能性があります。これは、新しい仕事への適応を苦にする労働者には試練となります。また、より高い技術スキルや柔軟性を持つ人々が、他の人々よりも、はるかに大きな利益をAIから得る可能性があり、社会的な不平等にも影響を与える可能性があります。パネルディスカッションを含めた2日目の議論が、これらの根本的な問いに対処するための思考材料を提供してくれることを期待しています。4.おわりに近年、AIは、中央銀行界で盛んに論じられてきました。その初期には、将来の金融政策運営への示唆を得るための理論的な議論が中心でしたが、今では、現在の政策運営に直結する喫緊のテーマになっています。
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日本銀行の金融政策決定会合でも、AIは、主要な論点になっています。おそらく、各国中央銀行でもそうでしょう。実際、AIは、需給ギャップ、金融環境、各種の中立水準(star variables)など、金融政策の中核的な変数に影響を与えています。第1に、AIは大きな正の需要ショックであり、経済、物価を押し上げています。第2に、供給面でも影響が予想され、生産性の上昇や資本蓄積を通じて、おそらく正の方向に作用するでしょう。また、そのことは、自然利子率に影響する可能性が
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あります。第3に、AIは株価を押し上げることで金融環境をより緩和的にする一方で、AI関連企業の多額の債券発行が長期金利の押し上げ圧力となり、金融環境の引き締め方向にも作用しています。第4に、さきほど議論したように、労働市場を構造的に変える可能性があります。これらの各要素は、それぞれ異なる方向、異なる時間軸で、金融政策運営に影響を与えます。AIが重要であることは論を俟ちません。また、これらの各要素がどの方向で影響するかという点については、伝統的な金融政策の枠組みの中で捉えることができます。しかし、「どの範囲や程度で」、「どんな時間軸で」という問いに、私たちは、まだ明確な答えを持っていません。当面は、引き続き、経済・金融指標を丹念に分析し、AI導入の影響を一貫した形で理解するよう努めていきます。暫定的には、需要サイドの影響が先行しており、また、金融環境をより緩和する方向に作用しているようにみえます。ただし、収益がついてこなければ、調整のリスクがあります。また、現時点の自然利子率や自然失業率への影響を測ることは困難です。金融政策の実践の場において、私は、AIの影響を過小評価することも、過大評価することもなく、バランスの取れた判断ができているのか、いつも自問しています。中央銀行は、AIの影響をあまり受けていない分野を含め、常に、経済を全体として評価しています。
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AIの進展が速いため、従来の統計が追いついていない可能性もあります。この点では、オルタナティブ・データが解決に役立つことを期待しています。また、この仕事が困難なのは、より広範で、より長期的な視点を持つ必要があるからです。例えば、地政学的な緊張や気候変動などその他の経済的な動き、さらには、AIを制御する枠組みなどの社会との相互作用といった点も、念頭に置く必要があります。AIは、これらの重要な質問には答えてくれません。人間の関与が必要です。このコンファレンスのように、多様な分野の専門家が一堂に会し、対面で意見交換することが大事なのです。この重要なイベントにご参加いただき、心より感謝申し上げます。この会
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5 議を通じて、有意義で刺激的なご意見をいただけることを期待するとともに、皆さまの協力によって生まれるであろう今後の進展を楽しみにしております。 以上